群像/飯沼ふるい
 
んなことはいいから私の話をお聞きなさい。





たしか小学校に入学したての頃だった。自分の顔を好きに描きなさい、そう言われたのでクレヨンで想像上の自分を描いた。
描いている最中のことはまるっきり覚えていない。気がつくと子どもの描くお決まりのホームベース形の顔が教室の後ろの壁に並んでいる。
名前がないと誰かも分からない自画像の列のなかに僕の顔がある。両肘の関節を不自然に折り曲げておネエのように手を振っている。
その指の歪さったらない。派手な盆栽の枝ぶりかと。本物の自分の手と自分が描いたはずの自分の手を何度も見比べたのを覚えている。
僕の指はあんな形ではない。先生が、「みんな
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