術後/草野大悟2
 
して暮らすのが夢です、と笑顔で話していた佐藤夫婦の声が聞こえてくるようだった。彼らには、まだ夢を叶える大きな可能性が残されていた。
 ページをめくっていた村中の手がふいに止まった。『ありがとう』という詩だった。
 オペをした自分に叩き付けるように、何度も何度も、反語的に『ありがとう』と繰り返されるその長い詩は、拘縮しねじ曲がった陽子の左手を、切り取られた鶏の足に例えていた。
 ありがとう
 ありがとう
 ぼくの太陽を壊してくれて
 ぼくらの一生を踏みにじってくれて
 ありがとう
とのくだりに、村中は、太郎の激しい憤りと執刀医の自分に対する強い怨念を感じ、胸の真ん中を鋭い棘が通り抜け
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