術後/草野大悟2
 
グのソファに座り、裏面に佐藤太郎と記名してあるA4版の茶封筒を開けた。
 中からヴァーミリオンの詩集が出てきた。
 表紙には、佐藤太郎第二詩集『ふたり』という文字が、毛筆の白抜きでくっきりと書かれていた。オペを受ける前の陽子の筆によるというその字は、なかなかの達筆であった。
 詩集には『謹呈』のカード一枚が挟まれているだけで、他にはなにも同封されていなかった。村中は、ゆっくりとページをめくっていった。あの太郎のいかつい外観とは、およそかけ離れたイメージを抱かせる多くの詩が並んでいた。
 オペ前に何度も行ったインフォームド・コンセントの際、退職したら海辺の街で絵を描いたり、魚釣りをしたりして
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