大切にされなくなるときのために/岩下こずえ
 
ワーとか、朝食とか、そういうのに必要な時間を差し引いて、布団のなかにいられるぎりぎりの時間を見積もる。しかし、実際に起き上がることはできないだろう。結局、洗顔も、シャワーも、朝食もとらずに、少しでも長く布団のなかにとどまっているだろう。
 まだ日は昇らない。まだ人々は、それぞれの布団や部屋のなかで静止していることを許されている。再び曖昧な、うすらぼんやりした意識に戻りかけていた雄一郎は、ふと、つぶやいた。
「大切にされなくなるときのために」
 そうだ。そのときのために、雄一郎は起き上がらなければならない。起きて、仕事に行って、ひとりで生きていけるようにならなければならない。しかし、それを受け
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