大切にされなくなるときのために/岩下こずえ
 
受け入れることはとてもつらい。どうしようもなく、つらい。
 ふいに、雄一郎だった意識の脳裏に、衰弱死した幼児の断片や自殺した女の断片、孤独死したホームレスの断片の幻影がうかぶ。小さな腕、後ろを向いている上半身、小汚い靴下を履いた片足、または、絡み合った毛細血管のおかげで辛うじて右脳からぶら下がっているぎょろりとした眼球。血が涙のように滴り落ちる・・・。そんな悲惨な断片が、無数に、そこらじゅうに散らばっている幻影が雄一郎の脳裏にひろがる。それらがそうなったのは、もう大切にしてくれるひとがいなくなって、さらに、ひとりでも生きていけなくなったから。家族や恋人、友人といった、大切にしてくれる誰かがいなく
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