『風立ちぬ』をめぐって/動坂昇
 
彼は、黒川夫人のほのめかすように、綺麗なところしか見ていないのだが)。あとは彼にとっては混乱していてよくわからないのだ。
 このような性格は、90年代末から2000年代にかけて漫画やアニメによく登場してくるいわゆる「セカイ系」の主人公に近い。ロボットと、「きみ」――それが「ぼく」にとっての世界大の問題だ。あとは混乱していてよくわからない。というより、その混乱を注視しながら、諸々の事象を自分なりに整理して社会のイメージを構成しようとしない。
 監督がこのような人物に対してまさに「セカイ系」の代表作『エヴァンゲリオン』の監督である庵野秀明の声を当てているのはきわめて批評的だといえる。庵野は宮崎にと
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