『風立ちぬ』をめぐって/動坂昇
 
によって忘れようとする。なぜなら、憧れから覚めれば、つくることをやめなければならず、そしてつくれなくなれば、自分は人の、会社の、国家の役に立たなくなり、死ぬしかないからだ。
 
 二郎はいわば生きるために部屋から這い出てものをつくる精神的な引きこもりだ。それがよくわかるのは、彼が本庄に「どこと戦争するんだっけ?」と尋ねる瞬間だ。二郎は新聞をまったく読まず、ラジオを聞くこともない。もちろん時間がないとか、いくらでも言い訳は立てられるだろう。だがそれ以前にそもそも彼のなかには社会への関心が存在しないのだ。とくに菜穂子があらわれてからは、彼の関心は、飛行機と菜穂子にしかない(その菜穂子ですらも、彼は
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