『風立ちぬ』をめぐって/動坂昇
 

 彼の同僚の本庄はわざわざ二郎と自分自身に言い聞かせるように「俺たちは武器商人じゃない、ただ美しい飛行機を作りたいだけだ」と言う。しかしそれでも、二郎たちのつくって売っているものはやはりどこまでいっても武器である。実際、それはただ飛ぶだけのものではないのだ。それほど速く飛び、それほど速く旋回し、それほど速く対象物に弾を撃ち込むことのできるものが、武器でなければ何だというのか?
 だが彼はそのことを忘れようとする。それを使っているものたちのあいだでは、こちらが生きればあちらが死に、こちらが死ねばあちらが生きる。そういうものをつくっているのだということを、彼は自分の憧れの世界に退却することによ
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