『風立ちぬ』をめぐって/動坂昇
めに、人にとって、会社にとって利益を上げられる人間であろうとする。才能を用いて。
しかしその才能はもともとどこまでも純真素朴な憧れによって動機づけられていた。それがあらためて二郎のなかで確かめられる瞬間もある。菜穂子に愛を告げる前、二郎が自分のつくった紙飛行機を彼女とのあいだでやりとりするシーンだ。この子どものような戯れのなかで、彼から彼女への愛は固まっていく。というのも、彼女は飛行機を飛ばすことへの憧れを彼に取り戻させてくれたからだ。
二郎は、生き延びるために、美しいものへの憧れを原動力として、その美しいものをつくり、人の役に立とうとする。そして、それによって現実を見ようとしない。
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