さよなら青から/春水八郎
いの
のぞき込む顔は
どうしてしずかにすこし不安で
見つめ返す顔は
どうしていつも憮然としていた?
その日またのぞき込んで
二、三度うなずきだけをして
めずらしく窓の外に
すぐ視線を遣った
しんとした部屋に冷蔵庫の音だけが聞こえて
椅子に座った男はまた、憮然としていた
※
仕事と言って部屋を出た夕方 清々しいと感じた冷たさを 慣れと取り違えた
※
家に帰らなかった 月がみえる
※
市ヶ谷の坂をのぼる ちょっとした失敗
※
眠る 音が消えていること 音にきづかないこと ぴたりとかさなるふたつの同じこと
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