Miz 5/深水遊脚
 
ついていた。弱小運動部だったがそれなりにきつく忙しくなっていった陸上部の練習に殆ど心を奪われていた私が、全く違う角度から話題を振られてそれを心地よいと感じたのは、ひとえに薫子が私をよく見ていて、私の欲しいものを察してくれて、話題を選び、話し方を工夫してくれたおかげだった。

 薫子の死はもちろん、とても悲しいものだった。遺書をみて薫子の私に対する好意を確かめたとき、その悲しみはそれなりに増した。でも薫子が好きだった本と同じ作家の本を片っ端から読んだり、一緒にみた映画を薫子の解説なしで何回もみたりしているうちに、それは悲しみという生易しい感情ではなくなった。私は薫子を裏切った。その思いは時を経て
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