塗り薬。/梓ゆい
(傷口が、膿み始めた。)
誰にも見えない六畳間で。
山盛りの塗り薬をこぼしながら
ぺたぺたと肌に塗っている。
(傷口が、泣き出した。)
細く赤い線を描きながら。
「目を閉じて。」
暗闇の中にうずくまれば
肉の表面に膿が絡み付いて
じくじくと痛みが走る。
(釘を打たない棺。)
眉間の皺が取れた父の身体は
もうすぐ焼かれて灰になり
「お帰りなさい。」という代わりに
小さな骨壷の中で
カラン・・・・。カラ・カラ・カラン・・・・。と
音を立てるのだろう・・・・。
箸を伸ばし
足であったはずの骨を拾い上げたが
記憶が抜け
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