塗り薬。/梓ゆい
 
(傷口が、膿み始めた。)
誰にも見えない六畳間で。

山盛りの塗り薬をこぼしながら
ぺたぺたと肌に塗っている。

(傷口が、泣き出した。)
細く赤い線を描きながら。

「目を閉じて。」

暗闇の中にうずくまれば
肉の表面に膿が絡み付いて
じくじくと痛みが走る。

(釘を打たない棺。)

眉間の皺が取れた父の身体は
もうすぐ焼かれて灰になり
「お帰りなさい。」という代わりに
小さな骨壷の中で
カラン・・・・。カラ・カラ・カラン・・・・。と
音を立てるのだろう・・・・。

箸を伸ばし
足であったはずの骨を拾い上げたが
記憶が抜け
[次のページ]
戻る   Point(1)