塗り薬。/梓ゆい
 
抜け落ちて解からない。

父の声が聞きたくて
何度も電話をかけたのに
受話器の向こう側は
十回目のコールの後ぶつりと切れて
何も返さなくなった。

(傷口は、時に笑う。)

泣き終わった後薄れながら
悲しみを連れ去るように・・・・。

「お母さんを、大切にしてあげなさい・・・・。」

誰とも無く言われることが
この先の労わりと
使命感に変わった・・・・。

傷口が笑えば
父の顔が見えるのだと言い聞かせ
山盛りの塗り薬を崩し始める。

痛みが増した皮膚はガードを作り
父がゆっくりと
微笑返すのが見えた。


戻る   Point(1)