薬売り/山人
 
はあるが、一本どこか筋のとおったような頑なさがあり、ロマンスグレイに近くなった毛髪をびしっと横わけにしている。
一流のマジシャンが行う巧妙な話術と沈着な物腰と所作、それらが何の変哲もない一家の玄関先で繰り広がられている。
 「心の薬?そんなものあるわけないでしょう」
なるべく意地悪く吐き捨てるように言うのだが、薬屋は物怖じせず一点を射る様に見、「利きます」、と断定的に言う。四洸丸のパッケージのような袋に入っていて、五角形である。外側に草書で 心がよくなる薬 と書かれている。橙色の少し固めの袋を振ると、からからと一〇粒くらい入っているのだろうか音がする。
「とてもいい按配になりますよ、必ず変
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