元日の夜に/草野大悟2
んだ、こんな状態でも。信じられん。
「はぁ、美味しいですねえ。これ、京都の老舗料亭のおせちですよね。日本酒ととても相性がよさそうですねえ」
語尾を微妙に伸ばして、田中が私を見つめる。次に、獺祭を見つめ、お猪口を見つめる。 飲むんかい! 幾らすると思ってるんだ獺祭! 一年一度の贅沢をちびちびやってたのになんなんだ! 私は、ついに、心の中まで熊本弁訛りの標準語になって絶叫する。
「ええ、とってもよくあいますよお」
美智子もなぜか語尾を伸ばして、獺祭を田中のお猪口に注ぐ。あ、あ、あーっ。いくらなんでも、いくらいい人でもそこまでする?普通。私は、またもや心の中で絶叫する。顔は、おそらくムンクの
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