イメージだけがひとり歩きだす場所で/ただのみきや
 

古いモーテルの花瓶に置き去りにされた花が
自らの死を賛美するように乾く涙の痕すらなくその面影が
告白したかつて多くの愛人たちを囲った男が最後に
望んだものはひとかけらのパンよりもささやかな
看取りの手の温もりだったように
求めることが罪悪なら求めないことは孕まぬ胎であり
死を拒むことは生を拒むことだと
荒野に立ち尽くす一本の灌木が宵の虚空に血を巡らせ
岩陰のトカゲが舐めとるひと雫の水滴に浮かぶ銀河
かけ引なしの不朽の命のざわめきを
不夜城の四角い窓へ吐き出したその刹那
流れ星か目覚めの夢か
ひと匙の純粋が紅茶に溶け去るように
残り香だけがそっとつま先を反らすふり返るこ
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