埋めるために1.10/竜門勇気
 
ドを小さな雨つぶが音を立てて打つ
頭から雨粒が透けて穴に落ちる
いくどか鍬を石だらけの泥に叩きつけては
母が泥と石を掻きだす
雨粒が透ける 鍬が火花をこぼす 母が石を掻きだす
穴は深くなる
小さな体が納まるように 思い出が遠くへいかなくなるぐらいの虚しい深さに

かつて彼の寝床だった場所に かつて彼のものだった毛布でくるんだ彼が眠っている
かつて彼が好きだった出窓に いつもそこから外を見ていた 彼を出窓に


部屋は暖かすぎるので
氷を入れた袋を抱かせた
目やにの臭いと口臭がした
それに混じった確かな死臭を嗅いだ
寝ぼけてこちらを見るような目をしているその顔が遠くへ
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