Time Waits For No One/ホロウ・シカエルボク
 
ちょうど両手を真横に伸ばした人間が間に立ったくらいの距離で(それはまるで玄関に置かれていたふたつの石のようでもある)
右手のほうのドアに手をかける、やはりそこにはなにもない、ここにあるすべての喪失はきちんと準備されたのちに執り行われたものだ…窓の向こうには懐かしい空が見える、他のものはすっかり変わってしまったけれど…そんな窓からそこを眺めてはいけない、なぜだかそんな気持ちになる、そこにあるものに囚われてはならない、それはもう演奏されることのない楽譜のようなものなのだ―目をそらして、壁が繰り抜かれたクローゼットのドアを開ける、穏やかな暗闇の匂いが一瞬漂う、一見そこにはなにもないように思える、だけど
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