Time Waits For No One/ホロウ・シカエルボク
 
けどその底板は外れるようになっていて…ぽっかりと空いた空洞にはおさない宝物が埋蔵されている―でももうその価値は暴落してしまった、だから在るままに失われてしまった
右手側の部屋を出て、左手側の部屋に行く、同じつくりだけれど、その部屋のクローゼットには宝物は隠されなかった、宝物という概念はその部屋では生まれることがなかった、クローゼットの底板が外れることがなかったからなのかどうかはいまとなっては判らない、すべての時間が経過し過ぎてしまった…クローゼットを開ける、暗闇の質が向こうとは違う気がする
左手側の部屋を出て、浴室に入る、不自然に広い浴室、大きな窓のあるその浴室で、陽のあるうちに入浴するのがとても好きだった―些細なことだったそんな記憶が、なぜかひどく鮮明に思い出される、むしろそれだけがいちばん確かなことだったみたいに…いまでも誰かを待っているみたいなその部屋の中で一瞬、そんな迷宮のような時間の一部になるのも悪くないようなそんな気がした、フックにかかったシャワーを取り、バスタブに向けて蛇口を捻ってみたけれど、その管の中には一滴の水も残っては居なかった。



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