ニューハーバー/草野大悟2
 
のめりに倒れようとした。
「キェー!」
 怪鳥のような声が響く。野原の左足の爪先が、男の下顎すれすれのところで止まっていた。男は尻餅をついて後退った。
「どうした、もう終わりか? 首筋はいつでも空いているぞ」
 野原は、息ひとつ乱していない。
 男がノロノロと身構えた。カミソリを持つ右手が震えている。
「死ねぇー! 死ね、死ね、死ねぇー!」
 男が大声で叫びながらカミソリを振り回す。野原は、紙一重のところでそれを躱し続けた。男の息が荒くなり、次第に顔色が青白くなっていく。やがて男は、全ての力を使い果たしかのように、ぐったりとその場に座り込んだ。肩で荒い息をしている。野原を睨み付けては
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