ニューハーバー/草野大悟2
 
てはいるが、その目にはもう眼光の鋭さは微塵も残ってはいない。
 野原がゆったりとした口調で訊ねた。
「おい、おまえ、どこの者(もん)だ」
 男は、黙ったまま野原を睨み付けていた。
「キィエーッ!」
 ふたたび怪鳥が鳴いた。
 男の頭上から左踵落としが放たれた。
「ヒッ!」。男が首を縮めた。股間から黄色い液体が流れ出た。
 野原の左踵は、男の頭を打ち砕く寸前でピタリと止まっていた。 男がへなへなと仰向けに倒れ込んだ。その時、けたたましいサイレンが響き、赤色灯を回転させた捜査車両とパトカーが何台も到着した。
 男は、その場で殺人未遂の準現行犯として逮捕された。田桜組の若衆だった。

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