ニューハーバー/草野大悟2
 
てで……」
「そうですか。実は私も初めてです」
「えっ⁉」
 智子のソープ嬢初日はこのようにして始まった。

 三年前、五店舗目のソープ「シャトー」をオープンさせて、丁度一週間目の初夏だった。朝から、湿気をたっぷり含んだ、押しつぶすような暑さが続いていた。
「社長を出せ!」
店の受付の方から怒鳴り声が響いてきた。
 野原は、控室を出て受付までゆっくりと歩いた。そこには、全身黒ずくめのスーツに身を包んだ若い男がいた。
 男は、野原を睨み付けながらスーツの上着右ポケットに手を入れた。
「てめぇ、うちに挨拶もなしに、調子こいてんじゃねえぞ!」
 男がいきなり右手を跳
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