白鱗/島中 充
 
の中、池に走った。二升瓶の注ぎ口から糸と釣り針を通し、ミミズを餌にして、瓶をゆっくり水に浸した。いつもの朝のように何の疑いもなく、ぱくりと白鱗はミミズを飲み込んだ。いっきにぐいと糸を引っ張ると鯉は頭から半身をすっぽり瓶の中にはまり込んだ。まったく身動きできない。あばれることもなく、音を立てることもなく、社の人に気付かれる心配などひとつもなかった。そして、汗臭い血の付いたシャツを脱ぎ、鯉を瓶ごと大切にくるんで、一目散に滝壺まで走った。針を外してやり、抱きかかえて鯉を水の中に離すと、大きく体をくねらせたかと思うと、目にもとまらぬ速さで白鱗は水の落ちる深みに消えていった。
 それから三年、少年もまた姉
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