白鱗/島中 充
 
た姉の発狂した年齢になった。すでに去年の夏、姉は失踪していた。村人も少年もそれを不思議に思わなかった。捜索も行われなかった。それがこの血筋の宿命のような気がするのだ。姉は鉄格子のある大阪の気違い病院にいるとか、外人相手のパンパンをしているとか、村人はうわさし、子供たちは川を下って、あのヒトは白蛇に変身したのだと言った。
 滝壺に白鱗を求めて少年は毎日のようにやって来た。小高い岩の上から滝壺を見つめた。深くえぐられた水底の穴倉にでもいるのか、まったく白鱗は姿を現すことはない。毎日毎日、水面を見つめていると、見えるはずのないものを、いるはずのないものを、薄く霧のかかる水面に見るようになってくる。すこ
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