白鱗/島中 充
 
いっそう白く、引き締まった小さな乳房だった。子供たちは橋の上から、おーいと呼びかけ、大人たちはその美しい裸体を欄干からじっと眺めていた。
 姉の姿を少年は白鱗に見ていたのかもしれない。夜明け前いつもムカデ、ミミズ、ときには庭でこしらえたサツマイモをふかし芋にし、池にやって来て巨鯉にあたえていた。鯉は差し出す少年の手の平に乗って、パクパクを食べるほどなついていた。

 敗戦の年、この村にも飢えがやってきて社の池から鯉が盗まれるようになった。村人の食用になる前に、白鱗だけは助けてやらなければ、逃がしてやらなければ、と少年は思った。社の人に気づかれないように音を立てないでこっそり盗むのは、父親から
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