傷跡/島中 充
カードを集めると一輪車がもらえる抽選のガムがあった。毎日毎日ガムを買ったが、どうしても最後の一種類が当たらなかった。母の財布からお金を抜いてガムを買った。店員のすきを見て素早くガムをポケットにいれ、店を出た。万引きのそのガムが当りだった。世の中とはそういうものだと少女は思った。
仲間の子供たちに囲まれ少女はサーカス団のようにキャーキャーと乗り廻し、得意だった。そして、路地の溝に落ちた。お母さんに一輪車は取り上げられ、髪の生え際に三センチの傷跡だけが残った。肉の少しもりあがっている傷跡に触れると少女にはうっすらとした高揚感があった。不思議なときめきであった。生きている証のようにさえ思えた。
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