快速処方箋/ただのみきや
 
ともなく
原子力に対する歪んだ愛を語り出したから
女は流星のように閃いて恋人を刺殺すると
車内を駆け抜け笑い声だけが風になった
あとには山椒魚の卵のようにゼラチンに包まれたひらがなの山
小面を着けた別の女が現れて短歌を火にくべ燃やし始めると
甘い匂いが漂い始めたがそれはすぐに人の焦げる匂いに変わった
遠近法だけが人々を金魚鉢の日常に浸らせる魔法だと
平和の鳩は双頭の鷲に内臓を喰われながらもにこやかだった
ああ小面を外してもあまり変わらない顏の女は乱れ髪
「君死にたまふ ことなかれ主義者め! 」
何かに似ていると思っていた音がSP盤のノイズだと気が付き
幽霊というほどでもない
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