ツバキホテル908号室/そよ風
 

私を縛りつけ苦しくて息ができなくなる

だから
現実に縄で縛られると
ホッとする
私の肉に食い込んでいる縄を
誰かがいつか解いてくれるから

見えない縄を解くのはとても難しい

ベルボーイはいとも簡単に
9階の隅にある
2番目に高級な
908号室の
ドアをそっとしめる

部屋の至る所に
時間が止まってしまった物達が潜んでいて
私の中にある時間の止まってしまった
記憶の扉がひらく

鮮明な色で押し寄せる

東京の外れの橋からみた夕日
のオレンジ

窓際に座っている同級生の光で透けた後れ毛

アジア帰りの父が着ていた
光った茶色の
奇妙な柄
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