ツバキホテル908号室/そよ風
った空間
前に進むだけの生活を
長く続いていると
後退することに罪悪感をおぼえる
このホテルは罪悪感の塊だ
私は罪悪感に駆られながら
ロビーでキーをもらう
ベルボーイは
いつの日か時間が止まってしまった空間へ
適切な距離を保ち
案内してくれる
何もかも知っているから
ベルボーイは
そっとドアを閉じる
908号室は
誰も解けない縄をそっとほどいて
柔らかい私の身体を解放してくれる
私のからだは
忘れていた自由さを取り戻し
いつもより不自由にみえる
いつからか自分を縛りつけている
見えない縄の存在を感じている
ふっとした時にきつくきつく
私
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