夜明け前/nemaru
血をなめて味わっていた
なめ回すと歯に挟まっていたネギに当たった
ネギを気にしながら
ひんやりした便所の床を頬で味わっていた
こういう機会はめったにないだろうと考えた
彼の手が眼鏡のレンズを拾い上げた
便所の水が流れる音がした
彼の靴は耳ともみ上げとこめかみの上でひねられた
もみ上げはジリジリと鳴った
彼の身体はその勢いで便所を飛び出していった
耳は摩擦熱を持っていた
頭の骨は六十キロの重さを耐えた
開いた便所のドアから
客が見えた
便所の床に転がっていた身体を起こして
ドアを閉めた
レンズのないメガネをジーンズのポケットにしまった
前歯はジーンズの後ろポケットに
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