夜明け前/nemaru
 
トにしまったが
取り出して
便所に投げた
水の底に沈んだ前歯があった
水を流した
涙の跡をシャツの袖で拭った
鏡はその姿を映した
便所を出て時計を見た
頭は電車の時間を計算した
席に戻り
夜勤があるので
と言うとあっさり解放された
身体は木屋町を歩き
電車に乗った
零時から始まる夜勤には間に合った
衛生的にサンドイッチを作る手伝いをした
作業は滞りなく進んだ
夜勤が開けると
電車に乗った
そして彼と同じ職場で働いた
その日も
電車に乗った
夜勤が開けると
電車に乗った
そして彼と同じ職場で働いた
その日の仕事帰りに夜勤の給料をもらいに行って
安い眼鏡を買った
残りを彼に渡すとまた王将に向かっていった
酒を飲むと眠気に襲われて
彼の話を聞き逃した
また便所に引っ張られた
踏んづけられながら
こういう機会はめったにないだろうと考えたことを
懐かしく思った
眼鏡は飛ばなかったので
便所の床はきれいに見えた
涙は流れなかったので
便所の床にくっつかなかった
少しずつ
運命は変わっていくのだなと思った
戻る   Point(1)