火の河の畔で/まーつん
 
 夏祭りの帰り

 土産もない手を
 ボッケに突っ込み
 田舎道を歩いていた

 暗い山影と
 遠ざかる喧噪

 鈴虫の声と
 小川の水音が
 草葉の陰から
 呟くように
 語りかけてくる

 その声に
 促され
 見上げると

 ぎらぎらと輝く
 星屑の散りばめられた
 天の原を

 火の川が一本
 流れていた

 それは
 シロツメクサの
 咲き乱れる野原を
 横切っていく
 溶岩か

 空に茂った深い闇を
 うねりながら這い進む
 錦蛇にも見え

 宇宙という
 冷たく
 虚ろな身体を貫く
 ただ一本だけの
 血
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