◆ Terence T D'arby best selection ◆/鈴木妙
 
おります」
 と示した先に車庫はなく、電車も線路も道もない草原だった。膝ほどまでの丈の雑草が一様に並んだ地が少しずつ昇り勾配に続き、ぼやけてよく見えないけれどたぶん数キロメートル先では濃い緑をまとった森が黄緑の地平を区切っていた。たまに一部分が風でうねるそれはそれなりにリアルで、思わずぼくはそこへ踏み出そうとした。踏み出しておけばよかった。でも茜が緩やかに前方へ差し出した腕が伸びきる前に、
「ほらほら」
 彼女の掌が透明な壁に突き当たったみたいに押し留められた。実際あった。ガラスほどの摩擦もない妙に滑らかな見えないなにかがぼくの差し出した指をそれ以上前に進ませなかったのだ。それはちょうどもう
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