陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
代わって下さい」
「そこら辺さがしてみろよ。水流れてるはずだ」
「流れてません」
「北君、君、言うときははっきり言うタイプ?」
「はい」
「あっ、そ」
 太郎は、北に場所を譲った。
 北も、今回は安心して水を飲んでいた。
「ほんと、おいしいですね。水がこんなにおいしいなんて、今まで知りませんでした」
 感極まって泣きそうな顔をしていう北を見た太郎は、何て感動的な奴、育ちの良さは、こういうちょっとした瞬間に出るんだな、そう思っていたく感動していた。
 五メートルほどの岩登りを、全員難なく通過して第一高点へ。快晴ではなかったもののそこでは、今まで縦走してきた南アルプスの山々を一望す
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