陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
ということになる。その後に出て来たのがアルピニストへの道である。彼は、熱しやすく冷めやすい男の典型だった。
 大学院入学初日、ゼミ担当の教授に
「教授様、ワタクシ、山岳部に入って北アルプスとか行きますデス。どうかヨロシクお願い致しますデス、はい」
 彼なりの精一杯の敬語を使って、そう宣言した。
 困惑顔の教授を研究室に残し、サークル長屋へと向かう太郎の脳味噌には、もう研究の「け」の字も残存していなかった。その代わり、北アルプス、ヨーロッパアルプス、アイガー北壁などの幻影が浮かんでは消え、消えては浮かんでいた。
 山岳部はなかなか見つからなかった。
 (山岳部、山岳部っと。まさか、ねぇん
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