陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
ません」、と例のとおり繰り返し、太郎にオンブされて、気持ちよさそうに眠っている陽子を、「娘さん、お届けにきましたぁ」などと、宅配業者みたいな気の利かないセリフを吐いて浩一郎に引き渡したのだった。
ギロリ! 浩一郎の目が鋭く光ったことはいうまでもない。
(四)
陽子が広告代理店のコピーライターになり、太郎がN大学の大学院に進むと、二人の登山熱は、天井知らずで上昇していった。
まずは、大学院に進んだ太郎の著しい変貌について記さねばならない。
太郎は、これまであれ程のめり込んでいた「あしたのジョー」と「健さん」の世界をバッサリ捨てた。理由は簡単で、単に飽きたから、とい
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