陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
泣き方であったけれど、「ほんとに、ほんとに、あたし、悲しい」、全身全霊をかけて、太郎にそう訴えているかのようだった。
随分長い時間そうしていたような気もするし、随分短い時間だったような気もする。
・・・ZZZZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・ZZ・・・ZZ・・・
太郎の耳に、信じられない音がやんわりと流れてきた。そう、陽子は、眠っていた。太郎の胸に顔を埋めたまま、泣くだけ泣いて、立ったまま、気持ちよさそうに。
え? 眠ってるし・・・
結局、この日、何が何だか判らないまま、太郎は、陽子をオンブしてタクシーに乗せ、彼女を家まで送り届け、応対に出た浩一郎に「すみません、すみませ
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