陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
ツ、これまでにない至近距離、これまでにない涙。
「ひっ、ひっ、ひっ、く、く、ひっく」
至近距離の顔が、突然、ぐにゃあっと歪んだ。
「ひっ、ひっく、ひっく・・・」
「陽子、しゃっくりか?」
「ひっく、ひっく、ひっ、う、う、うぇーん、う、う、うぇーんうぇーんうぇーん」
超弩級の声が「蜃気楼」中に響いた。他にいた二組ほどのアベックの客が、八つの目をまん丸くして見ている。
「うぇーん、うぇーん、びー、うぇーん、ひっく、びーびー、うぇーん」
そんなことおかまいなしに、至近距離の顔は泣き続け、いきなり立ち上がると太郎の横に立ち、太郎の首根っこを掴んで立ち上がらせ、うぇーんうぇーん、
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