陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
らぬ早業で粉砕したのは、ほんの一瞬だった。
「父さん、落ちついて聞いてね。あたし、道場継ぐ気ぜーんぜんないから」
「えっ!」
「道場継がないのっ!」
「う〜む・・・ 将来どうするんだ陽子」
「そんな先のことは判らない」
 娘が、一旦、こう、と決めたら、誰が何といおうが絶対に自説を曲げないことを浩一郎は知り尽くしていた。
 陽子の母親美(よし)子は、病弱で、陽子が小学校に上がる頃から入退院を繰り返してきた。その分、陽子には寂しい思いをさせてきた。しかし、陽子は寂しさはおくびにも出さず、美子の入院中は母親代わりをつとめてきた。
 陽子は、甘えるということを知らずに育った。母親の代わりに
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