陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
、陽子の父親、浩一郎その人であった。「あっ、父さん来てる。あの顔相当に怒ってるな。あたしが迎えに来るように電話したんだけど、太郎まずかった?」しらっと陽子にそう言われ、太郎は、(もちろんだ、この大馬鹿野郎めが!)、と心の中で大声をあげた。
浩一郎は、テコンドー道場の館主で、世界チャンピオン四回、全日本チャンピオンに五回もなっている知る人ぞ知る、知らない人は知らない、ブルースリーそっくりの男だった。アチョーとか言うんだろうなやっぱ。太郎の不安は一気に膨らんでいった。
 陽子はスタスタと浩一郎の方へ歩み寄ると
「お父さん、来てくれたんだ、ありがと」
 平気な顔してそう父親に声をかけた。

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