陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
、ヤメタ!」
「なんで?」
「ん、モゥ! 太郎の大バカ!」
 ぴったりした水色のジーンズに包まれた形のいいヒップ、キュッとくびれた腰、おそらくはBカップはあるであろうバスト、いやあ見事見事、そう思っていながら、陽子に対するトラウマからか、太郎は、そんなことは一言も口には出せなかったのだ。
 その日二人は、日本海の海鳴りの聞こえる民宿に泊まった。襖一枚隔てて。
 太郎は、湯上がりの浴衣姿でくつろいでいる陽子と食事を摂りながら「いやあ、日本海ってすごいっすね」などと、どうでもいいことを民宿の主人と話し、松葉ガニのみそ汁をお代わりしていた。
 陽子は、そんな太郎を見ながら「もう金輪際、太郎の
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