陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
ール二本とカツサンド二人前をフロントに注文した。それらが部屋に届くまで、陽子は不機嫌を絵に描いたような仏頂面をして一言も言葉を発しなかった。太郎はこの時まだ、なぜ陽子がこうも不機嫌になったのかとんと理解できずにいた。そして、ビールを二本以上飲んだ陽子がどう変身するかももちろん知らずにいた。
「太郎、あんたさぁ、ほんと、ドンカンだね!」
「な・・・どうした・・・」
「どうしたぁ? ハンッ! あたし美術館で何て言った、言ってごらんよ!」
「は・・・」
「あたし、二回も言ったのよ! 二回もよ! この陽子さんが、恥を忍んで言ったのにィ、太郎のバカ!」
「なんでよ、何て言ったのさ?」
 この一
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