陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
熱心に聞くふりだけしていた太郎は、ぐっと反らされたその胸に視点を集中させていたのだった。
 閉館時間はあっと言う間にやってきた。
「なんか喉渇いちゃった」 
 陽子はそう言いながらさっさと大原美術館西隣にある喫茶店、「プロムナード」に入っていった。そしてコーヒーを飲みながら
「すみませーん。この近くにホテルとかありますか?」
 そう店員に訊ねた。
「ええ、歩いて十分位の所にビジネスホテルがありますよ。近くには旅館もあります」
 店員は、意味深な笑みを浮かべながら応えた。
すっかり機能停止状態にあった太郎の灰色の脳細胞が、ホテルと旅館という言葉に素早く反応した。
「陽子、は、早
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