陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
ぇは、心配ねぇよ」うっかり口に出してしまって、あっ、と口を塞いだがもう遅かった。「なんですって!」そう言って槍のような視線で太郎を射抜いた陽子の背後には、今夜たぶん吹き荒れるであろうハリケーンが潜んでいた。
「ま、今は我慢しててあげる。んで、これがスーティンの鴨ね。力強いタッチ。彼、色ごとに違う筆を使ってたたきつけるようにして描いたんだよ。それで、筆が折れたり、右手の指の骨が折れたりしたんだって。モディリアーニに、『僕が死んでも大丈夫だ。後にスーティンという天才を残してゆくから』と言わしめた程の才能を持っていたけど、当時はあんまり絵は売れなかったみたい。あたしもそう。才能がありすぎると、凡人には
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