陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
子は、水色のジーンズに白いセーター、水色のハーフコート姿で、酒袋で作られた渋い焦げ茶色の大きなバッグを下げていた。
 太郎は、大きなキスリングを背負っていた。
 プアな大学生である二人は、極力、鈍行列車を利用し、急行や、まして特急などというリッチな方々が利用する列車は利用してあげないことで意志統一していた。
 二人を乗せた午前六時発の鈍行列車は、律儀に各駅停車を繰り返し、太郎を苛つかせた。時には、時間調整と称して駅で停車したりして、太郎をブチ切れ寸前まで追いつめ、午後三時にようやく第一日目の目的地である倉敷駅に到着した時には、太郎をヘロヘロ状態に陥れていた。陽子はどうだったかというと、本を読
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