陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
陽子を案内した。後からついてくる陽子が、笑いを必死で堪えていることに太郎が気付くはずもなかった。
「へぇ〜、ここかぁ」
陽子は誰もいないリングを見回しながらサンドバックやスピードボールを軽く叩いていたが、サンドバックの前に立つと、いきなり右のハイキックを叩き込み
「ね、太郎、あたしとスパーリングしない?」
そう言ってにっこり笑った。
「へっ? スパ・・・スパ・・・スパーリング? うむぅ」
太郎が重々しく健さん風に頷くのを完全に無視して、陽子はさっさとリュックを開け、いつも持ち歩いているジャージを取り出し、着替えてしまった。
「グローブは、ボクシングのでいいか?」
「いいよ
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