陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
感心するふりをしていた。
「太郎、私、リングが見たいな、太郎がいつも練習しているリング」
「へっ?」
「だから、リングだよ、リング」
そう言うと太郎の返事も聞かず
「運転手さん、K大の体育館に行って下さい」
そう告げて、にっこりと太郎を見た。この時、太郎はなにか嫌な予感に襲われ、ブルッと身震いした。
太郎のムフフは一瞬ショボンとなったが、ここは一番、健さんばりに『耐える男』になり切ることにして、「うむ」とか言いながら、陽子の言うとおり、K大体育館に行くことにした。
体育館に着くと、太郎は、健さんになり切って、「こっちだ」、そう渋く低い声を演出して言い、二階のリングに陽子
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