陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 

 激怒した陽子は、小さな躯のどこからそんな声が出てくるのか
「まて、くぉらあ〜」と雷の落ちたような怒声を発し
「なめたらいかんぜよぉ〜」
 なぜか鬼龍院花子になって、右ハイキックを、振り返ったその不良の左テンプルに見舞い、それでも怒りが収まらず、左膝蹴りを腹にたたき込み、その男を完全失神させたのだった。

「われわれワァ〜、国家権力ノォ〜、弾圧ニィ〜、負けないゾォ〜」
「シュプレヒコ〜ル! 安保はんた〜い、機動隊帰れぇ〜」
陽子の指示に従い、宗一郎の言葉を愚直に遵守し、東大を早々に諦めた太郎が国立K大学水産学部に入学したのは、ただ単に、通りそうな国立大学はその一校しかなかった
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