未完のエチュード ?/Giton
し)であったから、昨夜の甘い結合などを思い出す必要はなかった。
さきほどまで羅(うすぎぬ)の端(は)切れのように浮いていた雲は、いくつにもちぎれてから、炎熱に溶かされたように空の蒼の中に沈んでしまった。
日はうしろから照りつけていた。そして、真上に近づきつつあった。
小一時間ほどで田の面(おも)は切れ、葉の硬くなった楊に囲まれた荒れた神社が見えた。昨夜の雨が、泥の水溜りになって残っていた。
その奥には首洗いの池がある──と彼は言った。
そういう話が好きなのだ。ひとつの寝台で一晩を過ごした朝、彼はかならず、打ち首、心中、刺し違えの話をした。まるで、ぼくら
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)