未完のエチュード ?/Giton
 
くらの接触から発生する翳のように、彼を夭折幻想がとらえ、それはぼくにも伝わってきた‥


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 めぐりあった幸せを彼がふと漏らしたのも、そのころのことだったろうか‥

 古い建物の残骸や遺構を保存している処に出くわすと、ぼくはいつも不思議に思うことがある。

 造物主が用意し与えてくれたこの世界のままでもよいのに、人間たちはなぜちっぽけな意匠を作り上げ──それは時とともに崩れて見る影もなくなってしまうのに──、世界に付け加えようとするのか?

 最上層に建つ二月堂、三月堂は、畿内に住んだことのないぼくには、一種憧れの対象だった。修学旅行は、旅行社の日程にしたがって
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